普段、スーツを着ているとシワが気になることありませんか?
大抵のビジネススーツは素材がウール(羊毛)なので、ハンガーに吊るしたままスチームアイロンを直接軽く当てればシワは簡単に消すことができます。日頃のケアを怠らなければ、スーツ自体は3-5年くらい問題なく着られるように作られています(10年着られるという話もありますが、さすがに流行りから外れるでしょう)。
一方、あまり気にしていないかも知れんが、「ラペル」と呼ばれる襟(えり)の部分が波を打ったような状態になったときは難敵です。
結論から言うと、「直せるかは状態(原因)次第」としか言えません。しかも、改善に過度な期待は禁物です。
この悩みは日本だけでなく、海外の掲示板サイトでも同様の悩み相談が色々と寄せられていました。残念なことに、今のところ解決したという相談は見つかっていません。
スーツの襟が波打つ(シワになる)状態について再確認
対処方法は「直せるかは状態(原因)次第」と書いたとおりですが、まずは「ラペル(返り襟)」の話と、「波打つ」というのが実際にどういう状態かの確認をしておきましょう。
ラペル(返り襟)とは
今回のトピックにしているスーツのパーツですが、下記の画像で「ラペル(Lapel)」と書いている部分です。
ラペル(Lapel, 返り襟/下襟)はスーツ全体の生地とつながっている襟で、カラー(Collar, 上襟)は後から別の生地を縫い合わせて付けられた襟のことです。
ゴージ(George)と呼ばれるラペルとカラーを縫い合わせた部分(ゴージ・ライン)があるので、どこからカラーとラペルの区別は一目瞭然ですね。
ラペルが波打つ(ピリが出る)とは
ラペルと呼ばれるパーツが分かったところで、次は「波打つ(ピリが出る)」状態の確認です。
ピリとは縫い目付近に出る細かい波状のシワのことで、「ピリが出る」「ピリつく」と言われます。
以下は海外サイトで投稿されていたシワになったラペル(Wrinkled Lapel)の例です。
街を歩くサラリーマンを注意してみると、こういうピリついた状態のスーツを着ている人は非常に多いです。
一概に「安物だから」とも言えず、高級なスーツであっても起こりえる事象です。ただ、安いスーツほど原因となる工程(仕立て)が存在するため、その意味では「安いほどピリつく」というのも間違いではないでしょう。
ピリついたラペルの原因と直し方
それでは本題の直し方ですが、これは原因によって異なります。そして、ほとんどの場合、一時的にキレイになっても根本的な改善は望めません(改善した状態が持続しません)。
まずはピリが出る原因ですが、以下の原因が考えられます。
- 生地の伸縮によるもの
- 接着芯地の癒着の剥がれ
- 仕立ての問題
それぞれを少し詳しく見ていきましょう。
生地の伸縮によるピリつき
生地の伸縮は、「生地が引っ張られて伸びたあと、元の形状に戻ろうとする際にシワになる」など、色々な理由で発生することが考えられます。
恐らく、これがピリの原因としては最も多いと思われます。
ビジネススーツは仕事で着ているため、ジャケットを脱いだり羽織ったり、椅子から立ったり座ったり、座っているときの態勢など、気付かないところでジャケットには色々な方向に力がかかっています。これは気を付けても防ぎようがありません。
生地の伸縮については、クリーニングに出したことによって起こることもあります。
対処法
折り目のようなシワ程度であれば、ウール素材ならスチームを出しながらアイロンをあてる程度でシワは消えます。
一方、生地が伸縮して起きたピリの根本的な解決策は「スーツを直す」しかありません。近所のお店では対応してもらえないでしょう。
ただし、衣類修理の専門業者であれば相談次第で対応できるようなので、そのまま着るのも捨てるのも躊躇する場合は相談してみてください。
接着芯地の癒着の流れ
次は接着芯地の剥がれですが、これは主に「クリーニングに出したあと」や「ラペルが雨に濡れたり、汗や湿気で湿る」ことによって引き起こされます。
これはスーツの仕立ての違いによるところが大きく、ダイレクトに価格による違いにつながります(あくまでも高いほど良い仕立ての可能性がある、、、というレベルです)。
グレードとして高いほうから「総毛芯仕立て(フルキャンバス)」「半毛芯仕立て(ハーフキャンバス)」「ラペル部のみ毛芯仕立て」「接着芯仕立て」という仕立てがあり、それぞれ下記のように生地の間にどれくらい芯地が入っているかの違いがあります。
ピリつきやすいのは接着芯といって、上の図で言う一番右(FUSED)の仕立てで、生地と生地を接着芯(接着剤)で直接貼り付けているものです。一番安価な仕立てですね。
この場合、生地と生地を張り付けている接着芯地が濡れたりすることで、一部剥離したりして波や泡(バブル)があるように見える原因になります。
接着芯の癒着が原因の場合、ラペルの端が波打つというよりも、下のようにバブル(泡)がが発生しているように見えます。
これが生地と生地の間に挟まれている接着芯地(接着剤)の一部が剥がれた状態です。これについては、毛芯仕立てのスーツでは構造的に起こりえない事象ですね。
対処法
接着芯の問題は他の問題に比べて対応できる可能性があり、もともと接着芯は熱で接着しているので、それを熱で接着し直すという方法があります(自分でやれるかは別問題です)。
信用できるクリーニング店(近所とは限りません)に依頼するか、衣服修理の専門業者に依頼するのが一番でしょう。
もし自宅で対応する場合、ラペルを表から潰すようにアイロンがけするのは、一番やってはいけないことなので注意してください。
まず、返しの部分を伸ばして、表から当て布をしながらスチームアイロンを押しつけ(そのまま滑らさず)、その後にラペルの裏から同じようにアイロンがけをしてください。ラペルの裏からアイロンするのは、ラペルの立体感を作るためのものです。
仕立ての問題
これは上の2つと違って、私は経験したことがありませんが、既製品でもテーラーメイド(オーダーメイド)でも価格に関係なく低品質なスーツで起こるようです。
そもそも、「芯据え(しんすえ)」という作業の難易度が高く工数がかかるため、総毛芯仕立てであっても「テーラーの仕事が悪ければスーツに歪みが出る」という話ですね。
高級ブランドのスーツであっても、ものによって問題があるのは色々なテーラーが言及されています。
対処法
そもそも仕立ての問題かの判断自体が難しいので、既製品については何ともできないでしょう。
一方で、テーラーメイドの場合は仕立ててテーラーに持って行ってください。無償で直してもらえる期間は超えているとしても、まずは確認してもらうことに意味があります。
注意したいスーツの扱い方
ラペルは、一見して「スーツの良し悪しが分かる」と言っても過言ではないパーツです。どれだけラペルに立体感があっても、ピリついたラペルでは格好がつきませんね。
やはり、「品質」の面で劣っているからこそ、起こりやすいものでしょう。
それを目にする他の人からしたら、あらかじめブランドやテーラーメイドかを知っているわけでもないので、「安物かな?手入れしてないのかな?」と思われても仕方ありません。
スーツを扱う上で注意したいこと
ネット上では「日本は湿気が多いから仕方ない」というような意見もありますが、本毛芯で仕立てたスーツであれば、ラペルが簡単に波打つことはありません。
また、接着芯であっても、丁寧に扱っていれば、スチームアイロンのシワ取りで十分に対応できる程度のシワで収まります。
それを踏まえて、スーツの取り扱いは下記の点を「少し」気を付けてください。ほんの少しのケアで大きく違いが生まれます。
- ジャケットは肩部分に厚みのあるハンガーに吊るす
- パンツ・スラックスは裾を挟めるハンガーで逆さに吊るす
- 雨で濡れた場合はタオルで叩いて水分を取り除く
- 帰宅後はハンガーに吊るして上から下へブラッシング(ホコリや汚れを落とす)
- クローゼットに入れる前に風通しのいいところに一日かけておく
- 2日間はスーツを休ませる(月曜に来たら、次は最速で木曜)
- スーツはスキマにゆとりをもって保管(潰さない)
ジャケットを吊るす型部分に厚みのあるハンガーはスーツの購入時に付いてると思いますが、ブラシやパンツ用ハンガーは無ければ用意してください。
柔らかい馬毛を選ぶようにすれば、これは安くても全く問題ありません。消耗品です。
ジャケットは吊るしながら上から下にブラッシングして、パンツ・スラックスは脱がずに履いたまま上から下にブラッシングするとキレイに掃けます。繊維の間に入った見えないホコリまで取り除きましょう。
ブラッシングしたスーツはハンガーにかけたあと、風通しのいいところで最低1日はかけてください。
クローゼットに入れる際も、他のスーツと触れないくらいの間隔で(つぶれないように)保管してください。型崩れのほか、ラペルの折り返しが潰れてしまいます。
本当に、これだけで相当スーツの持ちは変わります。何よりも、「スーツを大事にする」という気持ちが生まれるので、その意識が一番大きいのでしょう。
スーツの気になる部分が、ケアも疎かに酷使してしまった結果なのであれば、少しの心がけで必ずスーツの寿命は大きく伸びます。日々のケアを大事にしてください。
接着芯のスーツでラペルが波打ってしまうのは、ある意味で仕方がない事象です。ジャケット選びの時点で既に決まってしまっていることでもあるので、気になるかたは下記の記事も参考にしてください。
ラペル(えり)が波打たないスーツのジャケットとは
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